イングランドのフットボールシーズンも佳境に入ると気になってくるのが国内カップ戦の行方です。
カラバオカップで優勝すると、翌シーズンの欧州カップ戦への出場権がどうなるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
- 優勝チームにはELやCLの出場権が与えられるのか
- それともカンファレンスリーグなのか
- 優勝賞金の金額は?
- リーグ順位によって権利がどう移動するの?
といった複雑なルールは毎年のように議論の的になります。
この記事では、イングランドの国内カップ戦「カラバオカップ」で優勝すると手に入る出場権や賞金などについて解説します。
最初の頃はFAカップとの違いがよく分からず混乱した経験があります。
- カラバオカップ優勝で獲得できる欧州カップ戦の出場権と規定
- 優勝賞金の具体的な金額とクラブにとっての真の経済的価値
- リーグ順位やFAカップの結果によって変動する出場枠の複雑な仕組み
- 歴代の日本人選手たちがこの大会で残してきた功績とチームへの影響
カラバオカップ優勝すると手に入る出場権

まずは最も関心の高い、競技面での報酬について詳しく見ていきましょう。
このタイトルを獲得することで、翌シーズンの欧州リーグへの切符がどのように確約されるのか、その基本ルールを解説します。
翌シーズンのELやCL出場権への影響
結論から言うと、カラバオカップを優勝したからといって、無条件でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)やUEFAヨーロッパリーグ(EL)の出場権が手に入るわけではありません。
ここがFAカップとの大きな違いであり、少しややこしいポイントです。
イングランドのフットボールにおいて、CL出場権はあくまでプレミアリーグの順位(通常トップ4、新方式では5位まで拡大の可能性あり)によって決定されます。
FAカップの優勝チームにはELの出場権が与えられます。
カラバオカップは、序列としてはこれらに次ぐ「第三のルート」として位置づけられているのです。
優勝でUECLプレーオフ出場権を獲得
では具体的に何が手に入るのかというと、翌シーズンの「UEFAカンファレンスリーグ(UECL)」のプレーオフステージ出場権です。
UECLは欧州のクラブ大会の中で第三層に当たる比較的新しい大会ですが、ここへの参加資格が得られることは非常に大きな意味を持ちます。
にとっては、欧州の舞台に立つための貴重な救済ルートとなるからです。
プレーオフを勝ち抜けば本戦(リーグフェーズ)に進むことができ、秋から冬にかけての過密日程と引き換えに、欧州リーグでの経験と収益を得ることができます。
FAカップ優勝時の権利との違い
よく混同されがちなのがFAカップとの違いです。ここで一度整理しておきましょう。
| 大会名 | 優勝特典(欧州カップ戦) | 開催時期の特性 |
|---|---|---|
| カラバオカップ (EFLカップ) | カンファレンスリーグ(UECL) プレーオフ出場権 | 2月〜3月に決勝 シーズン最初のタイトル |
| FAカップ | ヨーロッパリーグ(EL) リーグフェーズ出場権 | 5月に決勝 シーズン最後のタイトル |
FAカップの方が歴史的な権威も特典のグレードも高く設定されています。
しかし、シーズン半ばの2月にタイトルが決まるカラバオカップには、早期に来季の欧州行きを確定させられるという独自の戦略的メリットがあります。
2部クラブが優勝した場合の規定
もし仮に、チャンピオンシップ(2部)以下のクラブが下克上を起こしてカラバオカップを優勝した場合はどうなるのでしょうか。
実はこの場合でも、UECLへの出場権はしっかりと付与されます。
つまり、翌シーズンは国内リーグでは2部で戦いながら、平日の夜には欧州の各地へ遠征してUECLを戦うという、非常にタフかつ夢のあるスケジュールが組まれることになります。
クラブの規模によっては財政的にも大きなチャレンジになりますが、サポーターにとっては一生の思い出になるシーズンとなるでしょう。
リーグ順位と連動する出場権の行方

ここからが少し複雑な話になります。
「優勝チームがすでにリーグ戦で上位に入っていた場合、その権利はどこへ行くのか?」という問題です。
これは毎シーズン終盤の順位争いに直結する重要なトピックです。
既にCL出場権を持つクラブの場合
近年ではマンチェスター・シティやリヴァプールのように、リーグ戦でトップ4に入りCL出場権を確保しているクラブが、同時にカラバオカップも制するケースが多く見られます。
この場合、CL出場権の方が優先されます。
では、空いた「カラバオカップ優勝枠(UECL出場権)」はどうなるのでしょうか。
重要なのは、カップ戦の準優勝チームには権利が譲渡されないという点です。
「決勝で負けたけど、相手がCLに行くから自分たちが繰り上げでUECLに行ける」ということは起こりません。
リーグ6位や7位への権利繰り下げ
優勝クラブが権利を行使しない場合、その枠はプレミアリーグの順位表に戻されます(リバートされます)。
具体的には、まだ欧州カップ戦の出場権を持っていない最上位のクラブ、通常はリーグ6位または7位のチームにUECL出場権がスライドします。
スライドの仕組み(例)
もしリーグ1位〜5位のチームがカラバオカップとFAカップの両方を優勝した場合、リーグ6位がELへ、リーグ7位がUECLへ出場することになります。
だからこそ、中位クラブのサポーターは上位クラブのカップ戦優勝を願うという奇妙な現象が起きるのです。
新方式での出場枠拡大とEPSの影響
さらに2024-25シーズンからは欧州大会のフォーマット変更に伴い、「ヨーロピアン・パフォーマンス・スポット(EPS)」という要素が加わりました。
イングランド勢の欧州での成績が良い場合、CL出場枠が5位まで拡大される可能性があるのです。
これが適用されると、ELやUECLの枠もそれぞれ一つずつ下にズレることになります。
理論上は、カラバオカップ優勝チームが上位でフィニッシュしている場合、リーグ8位のチームまで欧州カップ戦の出場権が回ってくる可能性すら生まれています。
今まで以上に「最後まで諦めてはいけない」状況になっているわけです。
リーグ中位クラブにとっての重要な意味
トッテナム、アストン・ヴィラ、ニューカッスル、あるいは復権を目指すチェルシーやマンチェスター・ユナイテッドのようなクラブにとって、この「スライド」の行方は死活問題です。
もし下位クラブがカラバオカップで優勝してしまうと、その貴重な1枠が埋まってしまい、リーグ7位(あるいは8位)での欧州行きが消滅してしまいます。
自分たちが決勝に進んでいなくても、決勝の結果次第で来シーズンの運命が決まってしまうため、シーズン終盤の戦略を立てる上で決して無視できない要素となっています。
カラバオカップの優勝賞金と本当の経済的価値

次に、お金の話をしましょう。
「優勝すれば大金が入る」と思われがちですが、カラバオカップの懐事情は少し特殊です。
優勝賞金10万ポンドという意外な少なさ
驚かれるかもしれませんが、カラバオカップの公式な優勝賞金は、わずか10万ポンド(約1,900万円前後)です。
プレミアリーグのトッププレーヤーの週給が30万ポンドを超えることもある現代において、この金額は「お小遣い」程度に過ぎません。
ちなみにFAカップの優勝賞金は約200万ポンドですので、実に20倍もの差があります。
正直なところ、賞金目当てでこの大会を戦うメリットは、トップクラブにはほとんどないと言っていいでしょう。
賞金より重要なゲート収入分配の仕組み
「じゃあ何のために戦うの?」と思いますよね。
実は、この大会には「ゲート収入(入場料収入)を対戦クラブ同士で45%ずつ折半する」という独自のルールがあります。
例えば、3部や4部のクラブが抽選でマンチェスター・ユナイテッドやアーセナルといった巨大スタジアムを持つクラブとのアウェイ戦を引き当てたとします。
7万人、6万人の観客が入れば、そのチケット収入の45%が入ってくるわけです。
これは下部リーグのクラブにとっては、数年分の予算に匹敵する莫大な臨時収入になります。
この「富の再分配」機能こそが、カラバオカップが存続している大きな理由の一つです。
スポンサーボーナスなどの間接的収入源
トップクラブにとっても、直接的な賞金以外のメリットがあります。それはスポンサー契約に含まれる「タイトル獲得ボーナス」です。
との契約には、多くの場合「主要タイトルを獲得した際に追加報酬を支払う」という条項が盛り込まれています。
カラバオカップも主要タイトルの一つとしてカウントされるため、優勝すれば賞金の何倍、何十倍ものボーナスが入る仕組みになっているのです。
財政的弱者にとっての救済措置としての面
このように、カラバオカップは単なる競技大会以上の側面を持っています。
下位クラブにとってはジャイアントキリングによる知名度アップと財政的な特需を、上位クラブにとってはスポンサーへのアピールと若手の育成機会を提供する場として機能しています。
ただし、準決勝までは観客動員が見込めないカードだと収益が薄くなることもあり、過密日程による疲労や怪我のリスクと天秤にかけると、必ずしも全てのクラブにとって「美味しい大会」とは言えない側面もあります。
カラバオカップの戦略的意義と日本人選手の活躍

最後に、この大会が持つ「見えない価値」と、そこで輝きを放った日本人選手たちの足跡について触れたいと思います。
遠藤航や南野拓実による優勝への貢献
近年のカラバオカップは、日本人選手にとっても非常に縁の深い大会となっています。
記憶に新しいのはリヴァプール所属時の南野拓実選手と、現在の遠藤航選手の活躍です。
南野選手は2021-22シーズン、チーム内得点王となる4ゴールを挙げ、特に準々決勝レスター戦での劇的な同点ボレーは語り草となっています。
「タキ(南野)がいなければ優勝はなかった」とクロップ監督に言わしめるほどの貢献でした。
リヴァプールに見るタイトルの重み
そして2023-24シーズンの決勝では、遠藤航選手がチェルシー相手に延長含む120分間をフル出場し、中盤を支配しました。
主力に怪我人が続出する中、若手選手たちを鼓舞しながらタイトルをもぎ取ったあの姿は、現地サポーターからも絶大な信頼を勝ち得ました。
単にベンチにいただけでなく、ピッチ上で優勝を手繰り寄せた事実は、日本のフットボール史にとっても大きな意味を持ちます。
彼らの活躍は、「日本人がイングランドのタイトル獲得の中心的役割を担える」ことを証明しました。
鎌田大地や菅原由勢ら新たな挑戦者
その系譜は、クリスタル・パレスの鎌田大地選手やサウサンプトンの菅原由勢選手といった新たなチャレンジャーたちにも引き継がれています。特に鎌田選手は2024/25シーズンの早い段階からカップ戦で得点に絡む活躍を見せており、チーム内での信頼を勝ち取るための重要な足がかりとしてこの大会を活用しています。
最初のタイトルがチームにもたらす勢い
監督や選手たちはよく、カラバオカップを「勢い(モメンタム)をもたらす触媒」と表現します。
シーズン半ばの2月にウェンブリーでトロフィーを掲げることは、
を同時にチームに植え付けます。
マンチェスター・シティがこの大会を4連覇していた時期、彼らはここでの優勝を足がかりにリーグ戦のスパートをかけていました。
再建中のチームにとっても、自分たちの方向性が間違っていないことを証明する「最初の果実」として、極めて重要な意味を持つのです。
若手選手への機会提供と過密日程の是非
一方で、この大会は若手選手(アカデミー出身者)の登竜門でもあります。
といったスター選手も、最初はリーグカップでのアピールからキャリアをスタートさせました。
しかし、CLを戦うビッグクラブにとっては、年末年始の過密日程をさらに圧迫する要因であることも事実です。
「選手の健康を守るために試合数を減らすべき」という議論の中で、カラバオカップのあり方は常に問われていますが、それでも若手が育つ土壌としての価値は失われていません。
まとめ|カラバオカップで優勝すると変わる未来
今回はカラバオカップ優勝すると具体的に何が起きるのか、その出場権の仕組みや経済的な裏側について解説してきました。
優勝賞金こそ少ないものの、
という自信は、クラブにとって計り知れない価値があります。
リーグ戦の順位と連動して出場権がスライドしていく仕組みは、決勝に進出していないクラブのサポーターにとっても決して無関係ではありません。
日本人選手の活躍によって、私たちにとってもより身近で熱くなれる大会となったカラバオカップ。
次にウェンブリーの空にトロフィーを掲げるのはどのクラブなのか、そしてそこに日本人選手はいるのか、今後の展開からも目が離せません。


