イングランドで最も権威あるカップ戦、FAカップ。シーズン終盤になると、「FAカップで優勝するとどうなる?」と気になりますよね。
自分もプレミアリーグを見始めた頃は、この欧州大会出場権のルールが本当にややこしくて混乱しました。
特に「優勝チームがもしCL圏内だったら?」とか「圏外だったら?」で、他のチームの運命まで変わってしまうのが面白いところでもあり、難しいところでもあります。
この記事では、そんなFAカップ優勝にまつわる様々な疑問、特に複雑な欧州大会出場権の分配ルール(繰り下げ)について、誰でもスッキリわかるように図解や具体例を交えながら徹底的に解説していきます。
- FAカップ優勝で得られる3つの主要な報酬
- 優勝してもCLには出場できない理由
- 最も複雑な「ヨーロッパリーグ出場権」の繰り下げシナリオ
- 準優勝チームの扱いや最新のルール変更点
FAカップで優勝するとどうなる?3大報酬

世界最古のカップ戦であるFAカップ。この大会で優勝することは、単なる名誉だけでなく、クラブにとって非常に大きな実利をもたらします。
まずは、優勝チームが得られる主な3つの報酬(特典)を見ていきましょう。
FAカップ優勝の最大の特典
FAカップ優勝における最大の報酬は、なんといっても「UEFAヨーロッパリーグ(UEL)本戦(グループステージ)出場権」です。
これは、プレミアリーグの最終順位に関係なく得られる権利です。
たとえリーグ戦の成績が振るわず、欧州大会出場圏内(通常5位や6位)に入れなかったとしても、FAカップで優勝さえすれば、一発逆転でヨーロッパの舞台への切符を掴むことができます。
これが、シーズン中盤以降、リーグ戦で苦戦しているビッグクラブや中堅クラブがFAカップに「本気」になる大きな理由の一つですね。
ヨーロッパリーグ出場権を解説
FAカップ優勝で得られるのは、あくまで「ヨーロッパリーグ(UEL)」の出場権です。この点はよく間違われるポイントなので、しっかり押さえておきましょう。
UEFA(欧州サッカー連盟)が主催するクラブ大会には、上から以下のヒエラルキー(序列)があります。
FAカップ優勝は、この2番目の大会(UEL)への出場権が与えられる、と覚えてください。
カラバオカップとの違い
イングランドには、FAカップの他にもう一つ主要な国内カップ戦「EFLカップ(通称:カラバオカップ)」があります。
この2つの大会は、優勝によって得られる欧州大会出場権の「格」が明確に異なります。
- FAカップ 優勝 → ヨーロッパリーグ (UEL) 出場権
- EFLカップ 優勝 → ヨーロッパカンファレンスリーグ (UECL) 出場権
歴史と権威、そして参加クラブの裾野(FAカップはノンリーグも参加)が広いFAカップの方が、より上位の大会への道が用意されているわけですね。
EFLカップ(カラバオカップ)の仕組みや賞金について詳しく知りたい方は、こちらの記事「カラバオカップとFAカップの違いを徹底解説」も参考にしてみてください。
FAカップ優勝の賞金はいくら?
もちろん、優勝チームにはFA(イングランドサッカー協会)から賞金も支払われます。これは欧州大会出場権という「戦略的価値」とは別の、直接的な「金銭的報酬」です。
例えば、2023-24シーズンの賞金額は以下の通りでした。
- 優勝チーム: £2,000,000 (約3.8億円 ※£1=190円換算)
- 準優勝チーム: £1,000,000 (約1.9億円)
プレミアリーグの巨大クラブにとっては移籍金の一部にも満たないかもしれませんが、大会を勝ち上がる過程で得られる
じれらは、クラブの財政を大きく助ける重要な収入源となります。
2025-26シーズンの賞金体系
FAカップの賞金は近年増額傾向にあります。
参考までに、FAが発表している2025-26シーズンの本戦における賞金体系(勝者への支払額)を表にまとめました。
| ラウンド名 | 勝者への賞金額(£1=190円換算) |
|---|---|
| 本戦1回戦 | £47,750 (約970万円) |
| 本戦2回戦 | £79,500 (約1,500万円) |
| 本戦3回戦 | £121,500 (約2,300万円) |
| 本戦4回戦 | £127,000 (約2,400万円) |
| 本戦5回戦 | £238,500 (約4,500万円) |
| 準々決勝 | £477,000 (約9,000万円) |
| 準決勝(敗者) | £530,000 (約1億円) |
| 準決勝(勝者) | £1,060,000 (約2億円) |
| 決勝(準優勝) | £1,060,000 (約2億円) |
| 決勝(優勝) | £2,120,000 (約4億円) |
FAカップ優勝とCL出場権の関係

さて、ここが最も多くの人が疑問に思うポイントです。
「FAカップで優勝したら、CL(チャンピオンズリーグ)に出られるんじゃないの?」という疑問について、ハッキリと解説します。
優勝してもCLには出られない?
結論から言うと、FAカップで優勝しても、CL(チャンピオンズリーグ)の出場権は得られません。
時々「FAカップで優勝するとCLの出場権を得られる」といった情報を見かけることがありますが、これは誤りです。
FAカップ優勝によって直接的に得られる権利は、あくまでヨーロッパリーグ(UEL)の出場権です。
CL出場はリーグ順位が最優先
では、どうすればCLに出場できるのか?
イングランド(プレミアリーグ)において、CLの出場権を獲得する方法はただ一つ。「プレミアリーグの最終順位」で決まります。
通常はリーグ1位から4位(トップ4)がCL出場権を獲得します。(※UEFAの成績次第で5位まで枠が拡大するシーズンもあります)
FAカップやカラバオカップといった国内カップ戦の結果が、CL出場権の獲得に直接影響することは一切ありません。
あくまでも「リーグ戦こそが最優先」というのがUEFAの基本的な考え方です。
複雑な欧州出場権の繰り下げ

ここからが本題であり、最もややこしい部分です。
FAカップ優勝チーム(UEL出場権獲得)が、もしプレミアリーグの順位でもCLやUELの出場権をすでに獲得していたら、その「権利」はどうなるのでしょうか?
この「出場権の繰り下げ(Reassignment)」ルールが、シーズン終盤のプレミアリーグを一層面白くします。
優勝チームがCL圏内の場合
【シナリオ1】 FAカップ優勝チームが、プレミアリーグでCL出場圏内(例:1位〜4位)でシーズンを終えた場合。
【結論】 優勝チームは、より上位の権利である「CL出場権」を行使します。
その結果、FAカップ優勝で得た「UEL出場枠」は不要となり、その枠はプレミアリーグの順位で、まだ欧州大会出場権を得ていない最上位のクラブに譲渡されます。
具体例: あるシーズン、リーグ6位までが欧州大会出場権(CL/UEL)を持つとします。
この状況で、リーグ4位のマンチェスター・シティがFAカップで優勝しました。
- シティはリーグ4位として「CL」に出場します。
- シティが持っていた「FAカップ優勝枠(UEL)」が余ります。
- この枠は、リーグの次点である「リーグ7位」のクラブに繰り下がります。
このため、リーグ7位や8位を争うクラブのファンは、FAカップ決勝で「(自分たちとは関係ない)シティが勝て!」と応援する、という「応援のねじれ」現象が起こるわけです。
優勝チームがUEL圏内の場合
【シナリオ2】 FAカップ優勝チームが、プレミアリーグでUEL出場圏内(例:5位や6位)でシーズンを終えた場合。
【結論】 結果はシナリオ1と全く同じです。
優勝チームはリーグ順位でUEL出場権を行使するため、FAカップ優勝枠(UEL)は不要となり、その枠は「リーグの次点(欧州出場権なし)の最上位クラブ」に譲渡されます。
優勝チームが圏外だった場合
【シナリオ3】 FAカップ優勝チームが、プレミアリーグで欧州出場圏外(例:7位以下)でシーズンを終えた場合。
【結論】 これがFAカップの醍醐味です。
優勝チームは、リーグ順位に関係なく、FAカップ優勝者として堂々とUEL出場権を獲得します。
このシナリオは、シナリオ1とは逆に、リーグ上位のクラブに悲劇をもたらすことがあります。
2024年のマンUとニューカッスルの事例
このシナリオ3の典型的な例が、2023-24シーズンです。
2023-24シーズンの具体例:
- マンチェスター・ユナイテッド(マンU)は、プレミアリーグを8位で終え、リーグ順位では欧州出場権を逃していました。
- 一方、ニューカッスルは7位でフィニッシュし、このままならUECL(カンファレンスリーグ)出場権を得られるはずでした。
しかし、FAカップ決勝でリーグ8位のマンUが優勝したのです。
【結果】
- マンU(8位)が「FAカップ優勝枠」としてUEL出場権を獲得しました。
- イングランドに割り当てられる欧州大会の総枠(7枠)は決まっています。
- リーグ8位のマンUがカップ戦枠として1枠使用した結果、リーグ7位のニューカッスルに割り当てられるはずだった「リーグ枠」が消滅し、ニューカッスルは欧州大会出場権を失いました。
この時、ニューカッスルのファンは、FAカップ決勝で(ライバルの)マンチェスター・シティが勝つこと(=シナリオ1の発生)を切実に願っていたのです。
なんとも皮肉な話ですね。
FAカップ準優勝チームの扱いは?

もう一つの大きな疑問点。
「もし優勝チームがCL圏内だったら、準優勝チームに権利が回ってくるんじゃないの?」というものです。これも結論からいきましょう。
FAカップ 準優勝の報酬は?
結論:FAカップで準優勝したチームには、欧州大会出場権は一切与えられません。
準優勝チームが得られるのは、前述した賞金(2025-26シーズンなら£1,060,000)のみです。
「FAカップの準優勝クラブがヨーロッパリーグに出場する」というルートは、現在存在しません。
準優勝チームが出場できた旧ルール
なぜ「準優勝でも出られる」というイメージが残っているのか? それは、2015年以前は実際にそういうルールがあったからです。
昔(旧ルール)は、FAカップ優勝チームがすでにCL出場権を獲得している場合に限り、準優勝チームが繰り上げでヨーロッパリーグ(旧UEFAカップ)の出場権を得られるというルールが存在しました。
この記憶が残っているサッカーファンが多いため、情報が混乱しやすいのです。
2015年のルール変更点を解説
UEFAは、2015-16シーズンからこの「準優勝チームへの繰り上げルール」を廃止しました。
現行ルールでは、優勝チームがCL/UEL出場権をすでに獲得している場合、その枠は準優勝チームではなく、前述のシナリオ1・2の通り、「プレミアリーグの次点のクラブ」に譲渡されます。
豆知識:ルール変更の初適用例 この新ルールが初めて適用されたのが、2015年のFAカップ決勝(アーセナル vs アストン・ヴィラ)でした。
CL出場権を確保していたアーセナルが優勝。
旧ルールなら準優勝のアストン・ヴィラにUEL出場権が渡されましたが、ルール変更初年度だったため、出場権はリーグの次点(当時7位)のサウサンプトンに譲渡されました。
MCOルールによる出場権剥奪リスク
現代サッカーには、ピッチで勝っても欧州大会に出られないという、もう一つの複雑なルールが存在します。
それがUEFAによる「複数クラブ所有(Multi-Club Ownership, MCO)」規則です。
MCOルールとは?
FAカップ優勝チームのオーナーが、同じく欧州大会(特に同じUELやCL)に出場する別の国のクラブのオーナーでもある場合、利益相反(八百長など)の疑いを避けるため、UEFAの規則に抵触する可能性があります。
もし違反と判断された場合、FAカップで優勝したにもかかわらず、UEFAによってUEL出場権を剥奪される可能性があります。
この場合、剥奪された出場枠は、プレミアリーグの次点のクラブに譲渡されます。
ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)違反と合わせて、現代サッカー特有のリスクと言えますね。
このルールの犠牲となったのが、2024-25シーズンのクリスタル・パレスのFAカップ優勝です。
日本代表の鎌田大地選手が所属するクリスタル・パレスは、FAカップで優勝し、来シーズンの「UEFAヨーロッパリーグ(EL)」への出場権を見事に勝ち取りました。
しかし、ここで「オーナーの兼任問題」が浮上しました。
クリスタル・パレスの共同オーナーであるジョン・テクスター氏は、フランスの強豪「リヨン」のオーナーも務めており、リヨンも同じくELへの出場権を持っていたのです。
その結果、クリスタル・パレスはELから、ヨーロッパカンファレンスリーグ (UECL) への出場と格下げされてしまったのです。
コミュニティシールドと最新ルール

最後に、FAカップ優勝がもたらす「もう一つの出場権」と、大会の最新ルール変更について触れておきます。
コミュニティシールド出場権とは
FAカップで優勝すると、翌シーズンのプレミアリーグ開幕(通常はその1週間前)を告げる伝統的なプレシーズンマッチ「FAコミュニティ・シールド」への出場権が自動的に付与されます。
これは新シーズンの「公式戦第一戦」とも言える試合で、聖地ウェンブリー・スタジアムで開催されます。
対戦カード: 「プレミアリーグ(PL)王者」 vs 「FAカップ王者」
国内二冠(ダブル)達成時の相手
もし同じチームがプレミアリーグとFAカップの両方を制覇し、「国内二冠(ダブル)」を達成した場合はどうなるのでしょうか?
この場合、FAカップ王者の枠が空席となるため、対戦相手は「プレミアリーグの2位(準優勝)チーム」となります。
UEL出場権の繰り下げと考え方は似ていますね。権利が重複した場合、リーグ順位の次点のチームに権利が譲渡される、というロジックです。
2024-25からのリプレイ廃止
FAカップの伝統といえば「リプレイ(再試合)」でした。試合が引き分けに終わった場合、後日ホーム&アウェイを入れ替えて再試合を行う制度です。
しかし、このリプレイ制度が、2024-25シーズンより、1回戦以降で全面的に廃止されることが決定しました。
この背景には、FAカップ優勝者が参加する「欧州大会」のスケジュールが密接に関係しています。
UEFAチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグの試合形式が変更され、試合数が増加することに伴い、選手の過密日程を考慮した結果、国内カップ戦の日程を削減(リプレイ廃止)する必要が生じたのです。
FAカップの伝統も、UEFAの意向によって変わらざるを得ないという、現代サッカーの力学を象徴する変更点と言えます。
まとめ|FAカップで優勝すると得られる価値
最後に、FAカップで優勝すると得られるものについて、重要なポイントをまとめます。
FAカップ優勝で得られるもの
- ヨーロッパリーグ(UEL)出場権
・最大の報酬。リーグ順位に関係なく出場できる。
・CL出場権は得られない。 - 賞金(金銭的報酬)
・2025-26シーズン優勝賞金は£2.12M(約4億円)。 - コミュニティ・シールド出場権
・翌シーズンの開幕戦で、プレミアリーグ王者と対戦する。
特に注意すべきルール
- 繰り下げルール:
優勝チームがCL/UEL圏内の場合、その枠は「リーグの次点」へ譲渡される。 - 準優勝の扱い
準優勝チームに欧州大会出場権が渡ることは無い(2015年に廃止)。 - 圏外優勝のインパクト
リーグ圏外のチームが優勝すると、リーグ上位(例:7位)のチームが出場権を失うことがある(2024年ニューカッスルの事例)。
FAカップは、単なるトーナメント戦ではなく、シーズン終盤のプレミアリーグの順位争いにも大きな影響を与える、非常に重要な大会です。
この複雑なルールを知っておくと、シーズン終盤のプレミアリーグやFAカップ決勝戦が、何倍も面白く観戦できるはずですよ。


