イングランドのプレミアリーグを見ていると、「カラバオカップ」と「FAカップ」という2つの国内カップ戦が次々と出てきますよね。
自分も観戦を始めた頃は、「またカップ戦?」「この2つ、何が違うの?」と混乱していました。
カラバオカップとFAカップの違いを知りたいあなたは、おそらく当時の自分と同じように、
といった疑問をお持ちだと思います。
この記事では、そんな疑問を解消するために、似ているようで全く異なる2つの大会の核心的な違いを、分かりやすく整理して比較していきます。
この記事を読めば、もう両者を混同することはなくなるはずです。
- 2つの大会の最も重要な違いがひと目でわかる
- 歴史や権威(格)の差がどこから来るのかがわかる
- 賞金や欧州大会出場権の決定的な格差がわかる
- なぜクラブの選手起用(本気度)が違うのかがわかる
カラバオカップとFAカップの違いを比較

まず最初に、この2つの大会が「何」において「どう」違うのか、最も重要な核心部分から見ていきましょう。
名前、主催者、そしてその比較表で、全体像を掴んでください。
ひと目でわかる比較表
「カラバオカップ」と「FAカップ」。両者の最も重要な違いを以下の表にまとめました。
これだけ見ても、両者が全く異なる性格の大会であることが分かるかと思います。

| 項目 | カラバオカップ (Carabao Cup) | FAカップ (FA Cup) |
|---|---|---|
| 正式名称 | EFLカップ (English Football League Cup) | FAカップ (The FA Challenge Cup) |
| 主催団体 | イングリッシュ・フットボールリーグ (EFL) | フットボール・アソシエーション (The FA) |
| 創設年 | 1960年 | 1871年 |
| 参加チーム数 | 92クラブ | 約700チーム以上 |
| 参加資格 | プロ92クラブ (プレミア+EFL全クラブ) | FA管轄の全クラブ (プロ + アマチュア) |
| 権威・格式 | 国内3番目 (リーグ、FAカップに次ぐ) | 国内最高峰 (リーグ戦に匹敵/次ぐ) |
| 優勝賞金 (目安) | 10万ポンド (約1,900万円) | 200万ポンド超 (約3.9億円) |
| 欧州大会出場権 | UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ(UECL) | UEFAヨーロッパリーグ(UEL) |
※ポンドの円換算は、為替レートによって変動するため、あくまで目安としてご覧ください。
名前の由来とスポンサーの違い

両大会の「呼ばれ方」にも、その格の違いが表れています。
カラバオカップ
カラバオカップ (EFLカップ) の正式名称は「EFLカップ」または「リーグカップ」です。
「カラバオ」というのは、タイのエナジードリンク会社の名前。
つまり、大会の命名権(ネーミングライツ)をスポンサーが買い取っているため、スポンサー名で呼ばれています。
過去にも「ミルク・カップ」や「コカ・コーラ・カップ」など、スポンサーが変わるたびに愛称も変わってきました。
FAカップ
FAカップの正式名称は「The Football Association Challenge Cup」です。
現在は「エミレーツFAカップ」と呼ばれますが、こちらはスポンサー名が大会名の「前につく」形です。
カラバオカップと決定的に違うのは、「FAカップ」という名前自体が150年近い歴史を持つ強固なブランドである点。
大会のアイデンティティそのものを売却しているわけではありません。
この名前の安定性の違いが、すでに両者の伝統と商業的な側面のどちらが強いかを示していますね。
主催団体の根本的な違いとは

そもそも、なぜイングランドには2つも大きなカップ戦があるのでしょうか? その答えは、主催する団体がまったく別だからです。
FA (The Football Association)
FAカップを主催する「FA」は、イングランドサッカー界全体を「統治・管理」する団体です。
イングランド代表チームの運営や、プロからアマチュアまでの全クラブを管轄しています。
だからこそ、FAは「イングランド全土の真のチャンピオン」を決めるため、管轄する全てのクラブ(アマチュア含む)に門戸を開いたFAカップを開催しているのです。
EFL (English Football League)
カラバオカップを主催する「EFL」は、プロリーグの「運営団体」です。
具体的には、プレミアリーグ(1部)の下に位置する
の計72クラブを運営しています。
彼らは加盟クラブの利益のために活動しており、カラバオカップは「EFL加盟クラブ(+プレミアの20クラブ)」のための大会なのです。
この「統治機関」と「リーグ運営団体」という出自の違いこそが、これから解説する歴史、権威、参加資格、賞金といった、あらゆる違いの根源になっています。
カラバオカップとFAカップはどっちがすごい?歴史と権威の差

多くの人が疑問に思う「カラバオカップとFAカップ、どっちがすごいの?」という点。
結論から言えば、歴史と権威(格)においてはFAカップがカラバオカップを圧倒しています。
その理由を、歴史的背景から探ってみましょう。
FAカップの圧倒的な「格」の高さ

イングランドのファンやクラブにとって、FAカップ優勝はプレミアリーグ優勝に次ぐ、あるいはクラブの歴史によっては同等以上の栄誉と見なされることもあります。
その最大の理由は、次に解説する「歴史」と、アマチュアクラブまで参加できることによる「ジャイアントキリング(番狂わせ)」のドラマ性です。
下位リーグのクラブがプレミアリーグの強豪を倒す瞬間は、FAカップ最大の魅力であり、この予測不可能なドラマ性が大会の権威を特別なものにしています。
FAカップの150年以上にわたる歴史
FAカップの創設は1871年。これは「世界で最も歴史のあるサッカー大会」として知られています。
150年以上にわたって積み上げられてきた伝統こそが、FAカップに他のどの大会も真似できない絶対的な権威を与えています。
ちなみに、世界初のプロリーグである「フットボールリーグ(EFLの前身)」が設立されたのが1888年なので、リーグ戦よりもFAカップの方が歴史が古いことになります。
カラバオカップの設立背景と商業的側面
一方、カラバオカップ(当時はフットボールリーグ・カップ)が創設されたのは1960年。FAカップと比べると、その歴史は約90年も浅いものになります。
設立の動機も、FAカップとは大きく異なります。当時は欧州大会(今のCLなど)が人気を集め始め、国内リーグの観客が減少していました。
また、スタジアムに投光照明(フラッドライト)が普及し始めた時期でもあります。
そこでEFLは、「平日のナイトゲーム」という新たな収益源を確保し、観客を呼び戻す対策としてこの大会を設立しました。
つまり、カラバオカップは商業的・実利的な側面が強い大会としてスタートしたのです。
若手起用とビッグクラブの戦略

この「格の違い」は、ビッグクラブの戦略に直結します。
プレミアリーグのトップクラブ(マンチェスター・シティやリヴァプール、アーセナルなど)は、
を最優先します。
彼らは常に過密日程と戦っており、必然的に優先順位の低い大会では主力を休ませる必要があります。
カラバオカップは、その「権威の低さ」と後述する「賞金の低さ」から、トップクラブにとっては「最も優先順位の低い」大会と見なされがちです。
その結果、カラバオカップはプレミアリーグでは出場機会のない若手選手や控え選手を起用する「テストの場」「若手の登竜門」としての側面が強くなっています。
カラバオカップで普段見ない若手選手が起用されるのは、クラブが大会を軽視しているというよりも、過密日程を乗り切るための合理的な戦略(選手のターンオーバー)の結果なのです。
カラバオカップとFAカップ|参加チームと大会ルールの違い

両大会の性格は、参加資格や大会ルールにも明確に表れています。
FAカップは「開かれた大会」、カラバオカップは「閉じた大会」と言えるでしょう。
FAカップの参加資格(アマチュア含む)
FAカップの最大の特徴は、その門戸の広さです。
- 参加チーム数:
約700チーム以上(例: 2024-25季 745チーム) - 参加資格:
FAの管轄下にある、イングランドサッカーのピラミッド(リーグシステム)に参加する、一定基準を満たしたほぼ全てのクラブ。
これには、プレミアリーグ(1部)からEFL(2部~4部)のプロクラブはもちろん、その下のナショナルリーグシステム(5部~10部相当)に所属するセミプロやアマチュアクラブまで含まれます。
普段は別の仕事を持つアマチュア選手が、国のトップスターと公式戦で戦う夢を見られるのがFAカップです。
カラバオカップの参加チーム(プロ限定)
一方、カラバオカップの参加資格は非常に限定的です。
- 参加チーム数
厳密に92クラブ - 参加資格
イングランドのトップ4ディビジョンに所属するプロクラブのみ。
内訳は、プレミアリーグ(1部)の20クラブと、EFL(チャンピオンシップ、リーグワン、リーグツー)の72クラブ。
アマチュアクラブが参加することは絶対にありません。カラバオカップで起こる番狂わせは、あくまで「プロクラブ間」のものなのです。
リプレイ(再試合)ルールの変遷
FAカップの伝統的なルールに「リプレイ(再試合)」がありました。
これは90分で引き分けの場合、延長戦は行わず、後日ホームとアウェイを入れ替えて再試合を行うというものです。
しかし、このルールはビッグクラブの過密日程をさらに悪化させる要因となっていました。
そのため、UEFAの大会(CLなど)の拡大による日程を考慮し、FAとプレミアリーグの合意により、2024-25シーズンからリプレイは全ラウンドで完全に廃止されることが決定しました。
この決定は、伝統を重んじるファンや、強豪クラブとの再試合による莫大な入場料収入(ゲートレシート)を期待していた下位クラブにとっては、非常に大きな打撃となりました。
トップクラブの日程が、伝統よりも優先された形になってしまいますね。
延長戦やVARの規定は?
試合の決着方法にも違いがあります。
カラバオカップ
2018-19シーズン以降、決勝を除く全ラウンドで延長戦が廃止されました。90分で同点の場合は、即座にPK戦で決着がつけられます。
これは日程の過密化を避けるための措置です。ただし、準決勝のみホーム&アウェイの2レグ制で行われます。
FAカップ
前述のリプレイ完全廃止に伴い、90分で同点の場合は延長戦(前後半15分ずつ)、それでも決着がつかない場合はPK戦が行われます。
どちらの大会も、主にプレミアリーグのクラブのスタジアム(VAR設備が整っている会場)でのみVAR (ビデオ・アシスタント・レフェリー) が使用されます。
下位リーグのスタジアムでは使用されないことが多く、公平性の面で議論になることもあります。
優勝の「価値」:賞金と欧州出場権

クラブがカップ戦を戦う上で、最も分かりやすいモチベーションとなるのが「優勝の報酬」です。
この点において、両大会の「格」の差は決定的となります。
20倍以上?賞金額の決定的な差
両大会の「格」の差を最も露骨に表しているのが「賞金」です。その差は歴然としています。
- FAカップ優勝賞金 (目安) :約200万ポンド(約3億9000万円)
- カラバオカップ優勝賞金 (目安): わずか10万ポンド(約1,900万円)
優勝賞金だけでも20倍以上の差があるのです。
FAカップはプレミアリーグのクラブが3回戦から勝ち上がって優勝した場合、累積で総額約390万ポンド(約7.5億円)以上を獲得できるのに対し、カラバオカップは全ラウンドの賞金を合計しても微々たるものです。
参考までに、両大会の上位ラウンドの賞金テーブルを(簡略化して)比較してみましょう。
FAカップ 2025-26シーズン主要賞金(抜粋)
| ラウンド | 勝利クラブへの賞金 (1クラブあたり) |
|---|---|
| 準々決勝 (勝利) | £477,000 約9千万円 |
| 準決勝 (勝利) | £1,060,000 約2億1千万円 (敗者 £530,000) |
| 決勝 (優勝) | £2,120,000 約4億3千万円 (準優勝 £1,060,000) |
カラバオカップ 2025-26シーズン主要賞金(抜粋)
| ラウンド | 勝利クラブへの賞金 (1クラブあたり) |
|---|---|
| 準々決勝 (勝利) | £25,000 約500万円 |
| 準決勝 (勝利) | £25,000 約500万円 |
| 決勝 (優勝) | £100,000 約2千万円 (準優勝 £50,000) |
FAカップは準決勝で負けただけでも、カラバオカップで優勝するより5倍以上(53万ポンド)の賞金がもらえる計算になります。
これでは、クラブのモチベーションに差が出るのも当然かもしれません。
FAカップ優勝でヨーロッパリーグへ
カップ戦優勝のもう一つの大きな報酬が、翌シーズンのUEFA(欧州サッカー連盟)主催大会への出場権です。
FAカップの優勝クラブには、UEFAヨーロッパリーグ(UEL)の本戦出場権が与えられます。
UELは、チャンピオンズリーグ(CL)に次ぐ、欧州で2番目に権威のある大会です。これはクラブにとって、大きな名誉と収益(放映権料など)をもたらします。
カラバオカップ優勝の出場権は?
一方、カラバオカップの優勝クラブに与えられるのは、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ(UECL)の予選プレーオフ出場権です。
UECLは、CL、UELに次ぐ、欧州で3番目に権威のある大会です。
出場権の「繰り下げ」ルール
両大会とも、もし優勝チームがリーグ戦の順位ですでにより上位の欧州大会出場権(例:CL出場権)を獲得していた場合、その出場権はリーグ戦の次順位のチームに譲渡されます。
いかなる場合も、準優勝チームに出場権がいくことはありません。
賞金が安すぎると言われる理由
カラバオカップの優勝賞金「10万ポンド」が、いかにビッグクラブにとってインセンティブになりにくいか。
それは、プレミアリーグのトップ選手の給与と比較すると一目瞭然です。
トップ選手の週給は、10万ポンドを超えることも珍しくありません。
カラバオカップの「優勝賞金」が、スター選手「1人分の1週間の給与」に満たない可能性があるのです。
クラブ経営の視点からすれば、10万ポンドの報酬のために、数十億円の価値がある主力選手を平日のカップ戦に出場させ、ケガのリスクを冒すことは、経済的に非合理的です。
これが、カラバオカップで若手が起用される、現実的な理由の一つです。
結論:異なる役割を持つ2大会

ここまで、「カラバオカップとFAカップの違い」について、その歴史、主催者、ルール、そして報酬の観点から詳細に比較してきました。
両者はイングランドサッカー界において、全く異なる役割を担う大会であることがお分かりいただけたかと思います。
FAカップは伝統と実利の頂点
FAカップは、
において、イングランドサッカーの「魂」とも言える大会です。
高額な賞金と権威あるUEL出場権という実利的な報酬も、その価値を支えています。
ビッグクラブも主力選手を投入して本気でタイトルを獲りにくる、まさに「国内最高峰」のカップ戦です。
若手の登竜門としてのカラバオカップ
カラバオカップは、プロ92クラブ限定の大会であり、歴史的・金銭的価値はFAカップに大きく劣ります。
- 決勝が2月とシーズンで最も早く開催されるため、「シーズン最初のタイトル」を獲得するチャンスとなります。
- 同時に、過密日程の中で若手選手に実戦経験を積ませるための最適な「テストの場」として、明確な役割を確立しています。
まとめ|カラバオカップとFAカップの核心
カラバオカップとFAカップの違いの核心は、以下の7つの要素が互いに連関している点にあります。
- 出自の違い: 統治機関 (FA) vs リーグ運営団体 (EFL)
- 参加資格の違い: 全土 (アマ含む) vs プロ限定
- 歴史の違い: 伝統 vs 商業
- 権威(格)の違い: FAカップが圧倒的に上
- 報酬の違い(賞金): 20倍以上の圧倒的な差
- 報酬の違い(欧州): UEL vs UECL
- 戦略の違い: 主力投入 vs 若手起用
この7つの連関を理解しておけば、もう両方の大会を混同することはありません。
次にあなたがカラバオカップやFAカップを観戦するときは、「あ、こっちは若手中心だな」「こっちは本気でタイトル獲りに来てるな」と、クラブの戦略やその試合の持つ意味まで深く読み取れるはずです。
違いが分かると、イングランドサッカーの観戦がもっともっと楽しくなりますよ!
カップ戦を観戦するとき、その試合が持つ意味や、クラブの選手起用の意図がより深く理解できるようになるはずです。


