プレミアリーグを観ていると、シーズン終盤に「残留争い」や「昇格プレーオフ」といった言葉が飛び交い、ものすごい盛り上がりを見せますよね。
トップチームの優勝争いと同じくらい、あるいはそれ以上に劇的なドラマが生まれるのが、この昇格・降格システムです。
ただ、このルール、正確に理解していないファンも多いのではないでしょうか?
自分も最初は曖昧な知識しかなく、このプレミアリーグの昇格条件や降格条件の仕組みをしっかり理解したいと思って調べました。
この記事では、自分と同じようにプレミアリーグの昇格・降格ルールについて知りたい方に向けて、その詳細な仕組みから、クラブの運命を左右する莫大な経済的影響まで、分かりやすく解説していきます。
このシステムを知ると、シーズン終盤の試合が何倍も面白くなりますよ。
- プレミアリーグの降格条件(対象チームと順位決定ルール)
- EFLからの昇格条件(自動昇格とプレーオフの仕組み)
- 昇格・降格がクラブに与える莫大な経済的影響
- 近年の残留争いの傾向と「勝ち点40神話」の真実
プレミアリーグの昇格・降格とは?

プレミアリーグの最大の魅力は、トップクラブ同士のハイレベルな戦いだけではありません。
リーグの競争性とドラマ性を担保している「昇格・降格」システムこそが、世界最高峰と呼ばれる理由の一つです。
世界最高峰リーグの厳しい仕組み
プレミアリーグは、合計20のクラブで構成されています。
アメリカのメジャースポーツのように参加チームが固定された「クローズドリーグ」とは異なり、ヨーロッパの多くのサッカーリーグは「オープンリーグ」を採用しています。
これは、シーズン成績に基づいて、上位リーグと下位リーグの間でクラブが入れ替わることを意味します。
この「入れ替え」こそが、プレミアリーグの「昇格」と「降格」です。
このシステムがあるからこそ、リーグ下位のクラブも「降格」を避けるために最終節まで死力を尽くし、逆に下部リーグのクラブは「昇格」という夢を掴むために熾烈な戦いを繰り広げるわけです。
昇格・降格はそれぞれ何チーム?
プレミアリーグの昇格・降格は、非常にシンプルな「3アップ、3ダウン」システムを採用しています。
- 降格
プレミアリーグ(1部)のシーズン最終順位、下位3クラブ(18位、19位、20位)が、下部リーグである「EFLチャンピオンシップ(2部)」へ自動的に降格します。 - 昇格
EFLチャンピオンシップ(2部)から、合計3クラブがプレミアリーグへ昇格します。
プレミアリーグの20クラブのうち15%にあたる3チームが、毎年入れ替わることになります。
シーズン終盤の熾烈な残留争い
もし降格枠が1つだけだったら、多くの中位クラブは早い段階で「残留確定」となり、シーズン終盤は消化試合が増えてしまうかもしれません。
しかし、「3枠」もあることで、リーグ中位(例えば13位や14位)のチームでも、数試合の結果次第では一気に降格圏に引きずり込まれる可能性があります。
これが、シーズン最終盤まで続く「残留争い(Relegation battle)」を生み出す要因です。
優勝争いがとっくに決着していたとしても、最終節まで「どのクラブが生き残るのか」という、もう一つのメインイベントが続くわけです。
プレミアリーグの降格条件

では、具体的に「降格」はどのように決定されるのでしょうか。
全38試合を戦い抜いた後、クラブの運命は厳格なルールに基づいて決定されます。
降格対象はリーグ下位3クラブ
前述の通り、8月から翌年5月までに行われる全38試合が終了した時点での最終リーグテーブル(順位表)に基づき、18位、19位、20位のクラブが降格となります。
これは非常にシンプルです。
問題は、シーズン最終盤に複数のクラブが同じ勝ち点で並んだ場合、プレミアリーグの公式ハンドブック(C.7)によれば、順位は以下の優先順位で決定されます。
これは、「シーズン38試合すべて」のパフォーマンスを評価するというプレミアリーグの明確な哲学を反映しています。
例えば、0-3で負けている試合でも、最後に1点を返して「0-2」にすること。あるいは、4-0で勝っている試合で、手を抜かずに5点目を取りに行くこと。
その「1点」が、シーズン最後の最後に、得失点差や総得点数の差となって残留と降格を分ける可能性があるのです。
このルール設計が、プレミアリーグの試合を最後まで攻撃的でエキサイティングなものにしている要因の一つです。
特別なタイブレーク(C.17)
もし上記の「勝ち点」「得失点差」「総得点数」のすべてが同一のクラブが複数存在し、しかもその順位が「降格」や「優勝」を決定する場合、どうなるのでしょうか?
その特別なケースに限り、以下の追加ルールが適用されます。
直接対決の結果が考慮されるのは、あくまでもシーズン全体のパフォーマンスで決着がつかなかった場合の「最終手段」として位置づけられています。
プレミアリーグへの昇格条件

降格する3チームがいれば、当然、昇格してくる3チームがいます。
この3枠は、プレミアリーグの一つ下のディビジョン「EFLチャンピオンシップ」での過酷な戦いを勝ち抜いたクラブに与えられます。
EFLからの自動昇格は何位まで?
EFLチャンピオンシップは24クラブで構成されており、プレミアリーグ(38試合)よりも多い、なんと全46試合という長丁場のリーグ戦を戦います。
この46試合がすべて終了した時点で、リーグテーブルの1位と2位になったクラブは、プレミアリーグへの「自動昇格」の権利を獲得します。
まずはこの「2枠」に入ることが、全クラブの最大の目標となります。
残り1枠を争う昇格プレーオフ
残る1つの昇格枠は、レギュラーシーズンとは別に行われる「昇格プレーオフ(Promotion play-offs)」というトーナメント戦で決定されます。
このプレーオフには、EFLチャンピオンシップのシーズン順位3位、4位、5位、6位の合計4クラブが参加します。
もし3位までが自動昇格だったら、4位以下のチームは早い段階で昇格の望みが絶たれてしまうかもしれません。
しかし、6位までにプレーオフのチャンスを残すことで、シーズン最終盤まで「自動昇格レース(1位・2位争い)」と「プレーオフ出場権レース(3位~6位争い)」という2つの見どころが生まれます。
このシステムが、EFLチャンピオンシップ自体を非常にエンターテイメント性の高いリーグにしています。
プレーオフ決勝は一発勝負
昇格プレーオフのレギュレーションは、短期決戦ならではの厳しさがあります。
準決勝(セミファイナル)
まず、4チームによる準決勝が行われます。対戦カードはレギュラーシーズンの順位に基づきます。
試合形式は、ホーム&アウェイの2試合制(2レグ)です。
レギュラーシーズンで上位だったチーム(3位と4位)は、第2戦を自身のホームスタジアムで戦えるというアドバンテージが与えられます。
勝敗は2試合の合計スコアで決まりますが、アウェイゴール・ルールは適用されません。
合計スコアがタイの場合は、第2戦の終了後に延長戦、それでも決まらなければPK戦で勝者を決定します。
決勝(ファイナル)
準決勝を勝ち上がった2クラブが、プレミアリーグ昇格の最後の1枠をかけて激突します。
決勝は、両クラブにとって中立地であるロンドンの「ウェンブリー・スタジアム」での一発勝負です。
90分で決着がつかなければ延長戦、そしてPK戦と、まさに天国と地獄を分ける戦いとなります。
この重要なプレーオフ決勝では、2022年シーズンからVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されています。
クラブの未来を左右する一戦だけに、判定の公平性を期すための措置ですね。
プレミアリーグの昇格・降格がもたらす経済的影響

プレミアリーグの昇格・降格は、単に競技上のステータスが変わるだけではありません。
クラブの経営規模を根底から覆すほどの、巨大な経済変動をもたらします。
「世界一リッチな試合」の正体
EFLチャンピオンシップの昇格プレーオフ決勝は、世界的に「世界で最もリッチな試合(the richest game in football)」と呼ばれています。
これは、試合の勝者に直接「賞金」が支払われるという意味ではありません。勝者が手にするのは、プレミアリーグ昇格によって将来的に得られる莫大な収益です。
金融サービス企業デロイトの試算(2020年)によれば、その経済的価値は最低でも1億7000万ポンド(約320億円)、昇格後にプレミアリーグ残留に成功した場合は3億ポンド(約560億円)近くに達するとされています。
この価値の源泉は、主に以下の3つです。
- 巨額の放映権料
プレミアリーグは世界最高額の放映権料を誇り、仮に最下位で降格しても1億ポンド(約188億円)以上が分配されます。 - 入場料収入
チケット単価の大幅な引き上げや、ホスピタリティ収入の増加。 - 商業収入
グローバルな露出によるスポンサーシップ契約料の高騰や、グッズ販売の増加。
まさに、たった1試合でクラブの運命が変わる瞬間に立ち会えるわけです。
降格クラブ救済:パラシュートペイメント
逆に、プレミアリーグから降格することは、クラブにとって「財政の崖」と呼ばれるほどの収入激減を意味します。
プレミアリーグ時代に契約した高額な選手年俸は、降格してもすぐにはゼロにできません。
この衝撃を緩和し、クラブが経営破綻するのを防ぐために設計されたのが、「パラシュート・ペイメント(Parachute Payments)」と呼ばれる財政的救済措置です。
これは、降格クラブに「ソフト・ランディング」の機会を提供するための移行資金で、プレミアリーグの放映権料を原資として、降格後最大3年間にわたって支払われます。
支給額は、降格後の年数に応じて段階的に減少します。(※プレミアリーグ均等分配金に対する割合)
ただし、重要な例外もあります。
- 1シーズンルール
プレミアリーグにわずか1シーズン在籍しただけですぐに降格した場合、3年目(20%)の支払いは受けられません。 - 再昇格ルール
支給期間中にプレミアリーグへ復帰した場合、その時点で支払いは停止されます。
財政格差と「ヨーヨークラブ」問題
このパラシュート・ペイメントは、降格クラブを財政的に保護する一方で、EFLチャンピオンシップの「競争の歪化」を招いているという長年の批判もあります。
EFLチャンピオンシップ内において、この莫大な資金を受け取るクラブと、受け取らないその他大多数のクラブとの間に、圧倒的な財政格差が生まれてしまうのです。
パラシュート受給クラブは、その資金力で高額な選手を維持できるため、すぐにプレミアリーグに復帰しやすくなります。
これが、特定のクラブが昇格と降格を繰り返す、いわゆる「ヨーヨークラブ(Yo-yo clubs)」現象の原因の一つとされています。
プレミアリーグ 昇格条件 降格条件の近年の傾向

最後に、これらのルールと経済システムが、実際のピッチ上でどのような傾向を生み出しているのか、近年のデータを見てみましょう。
昇格組のプレミアリーグ残留率
EFLチャンピオンシップを勝ち抜き、晴れてプレミアリーグに昇格しても、そこはゴールではなく新たな試練の始まりです。
2013-14シーズンから2022-23シーズンまでの10年間で、プレミアリーグに昇格した30クラブのうち、15クラブがわずか1年で即時降格しています。
過去10年の平均残留率は、ちょうど50%でした。
2チームに1チームは、1年でチャンピオンシップに戻っている計算になります。
昇格組が全滅したシーズン
しかも、この「残留率50%」というデータでさえ、楽観的かもしれません。
近年、プレミアリーグのトップクラブだけでなく中堅クラブの財政力もインフレを続けており、昇格組が適応するハードルはかつてなく高まっています。
その象徴が、
と、2シーズン連続で昇格した3チームすべてが1年で降格するという、プレミアリーグ史上でも稀な事態が発生しています。
いかに昇格組の戦いが厳しいかが分かりますね。
残留に必要な勝ち点目安
プレミアリーグファン(特にベテランのファン)の間では、残留を果たすための安全な勝ち点は「40」であると、長年信じられてきました。
勝ち点40さえ取れば、まず降格はないだろう、という「マジカルな壁」のように扱われてきたのです。
「勝ち点40神話」は崩壊
しかし、近年のデータを分析すると、この「勝ち点40神話」はもはや実態と乖離しています。
1995-96シーズン(20チーム制移行後)以降、降格ラインの最上位である18位のクラブの平均勝ち点は、約35.6ポイントです。
勝ち点37あれば、多くのシーズンで残留が可能でした。
さらに近年、このボーダーラインは低下傾向にあります。
| シーズン | 18位(降格クラブ) | 最終勝ち点 |
|---|---|---|
| 2023-24 | ルートン・タウン | 26 |
| 2022-23 | レスター・シティ | 34 |
| 2021-22 | バーンリー | 35 |
| 2020-21 | フルハム | 28 |
2023-24シーズンは勝ち点「26」が降格ラインでした。この原因は、リーグ内格差の拡大にあると見られています。
マンチェスター・シティやリバプールといった圧倒的な力を持つ上位クラブが、中位・下位クラブからより多くの勝ち点を「吸い上げる」構図が強まっています。
その結果、下位集団が勝ち点を積み上げること自体が困難になり、より少ない勝ち点(30点台半ば、場合によっては20点台)でも残留できるケースが増えているのです。
「勝ち点40」を目指すのは、もはや過去の常識と言えそうです。
まとめ|プレミアリーグの昇格条件と降格条件
今回は、プレミアリーグの昇格・降格の仕組みについて詳しく見てきました。
- 降格
プレミアリーグの下位3クラブ(18位~20位)が自動降格。 - 降格の順位決定
「勝ち点」→「得失点差」→「総得点数」の順で優先される。 - 昇格
EFLチャンピオンシップから合計3クラブが昇格。 - 昇格の仕組み
「1位・2位の自動昇格(2枠)」+「3位~6位によるプレーオフ(1枠)」。 - 経済的影響
昇格プレーオフ決勝は「世界一リッチな試合」と呼ばれ、降格クラブには「パラシュート・ペイメント」が支払われる。 - 近年の傾向
昇格組の残留は極めて困難(2年連続全滅)。残留ボーダーラインも低下しており「勝ち点40神話」は崩壊している。
プレミアリーグの昇格・降格システムは、その頂点に立つクラブに莫大な富をもたらすと同時に、失敗したクラブにも(限定的な)セーフティネットを提供する、ハイリスク・ハイリターンな構造をしています。
この緊張感こそが、プレミアリーグを世界で最もエキサイティングなリーグにしている中核的な要因だと、自分は思います。
このルールを知った上でシーズン終盤の試合を観ると、また違った視点で楽しめるはずです!


