世界中のフットボールファンを熱狂させるリバプールFC。
これから応援を始めようとしている方や最近興味を持ち始めた方にとって、「リバプールのライバルチームはどこなのか」といった背景は、少し複雑で分かりにくいかもしれません。
アンフィールドで繰り広げられる熱戦の裏側には、単なるリーグ順位の争いだけではない、
これらが深く絡み合っています。
マンチェスター・ユナイテッドやエヴァートンといったクラブとの関係性を知ることで、週末の試合観戦が何倍も味わい深いものになるはずです。
こうした「文脈」を知ることで、選手の一つ一つのプレーに込められた魂の意味を理解することができ、リバプールの試合がますます面白くなっていくことでしょう。
本記事では、リバプールのライバルチームどこにあたるのか、深堀していきます。
- リバプールが抱える3つの異なるライバル関係の構造を理解できる
- マンチェスター・ユナイテッドとの歴史的な因縁や経済的背景がわかる
- エヴァートンとの距離感や関係性が変化した理由を知ることができる
- マンチェスター・シティやチェルシーとの現代的な覇権争いを把握できる
リバプールのライバル関係を歴史と相性から徹底解説
リバプールFCを語る上で避けて通れないのが、数々のドラマを生み出してきたライバルたちとの関係性です。
ここではまず、リバプールを取り巻く競争環境の全体像と、なぜこれほどまでに熱い対立構造が生まれたのか、その根底にある要素を整理していきます。
リバプールを取り巻く3つの異なる競争の形
リバプールの試合を見ていて一番面白いなと感じるのは、対戦相手によってスタジアムの空気感や、選手たちが放つ気迫の種類が明らかに変わることです。
一口に「ライバル」と言っても、リバプールには大きく分けて3つの異なるライバル関係のパターンが存在すると考えています。
| ライバルの種類 | 対象クラブ | 関係性の特徴 |
|---|---|---|
| 兄弟喧嘩 （ローカル） | エヴァートン | 同じ街の近隣対決。 日常的なプライドのぶつかり合い。 |
| 歴史的宿敵 （リージョナル） | マンチェスター・ユナイテッド | 産業革命からの都市間対立と、成功したクラブの座を巡る争い。 |
| 競技上の壁 （コンペティティブ） | マンチェスター・シティ チェルシー | 現代フットボールにおけるタイトル獲得の直接的な障壁。 |
これらはどれもメディアでは「ライバル対決」と一言で表現されますが、その中身は全く別物です。
サポーターが抱く感情も、「絶対に負けたくない」という種類がそれぞれ微妙に異なるのが非常に興味深い点だと感じています。
ライバルとの対立を生んだ地域性と歴史的背景
なぜここまで激しいライバル関係が生まれたのかを探ると、単なるスポーツの話だけでは片付けられない、英国北西部の深い歴史が見えてきます。
特にリバプールという街は、独自のアイデンティティを非常に大切にする港町です。
などが、外部の敵に対して非常に強い対抗意識を生み出しています。
また、「スカウス（Scouse）」と呼ばれるリバプール独特の気質も、ライバル関係を熱くさせる要因の一つでしょう。
スカウス（Scouse）とは、リバプール出身者やその方言を指す言葉です。
彼らは自分たちを「イングランド人である前にスカウサー（Scouser）である」と表現することもあり、この強い郷土愛がクラブへの忠誠心と、ライバルチームへの強烈な敵対心に繋がっています。
この独自のメンタリティがあるからこそ、アンフィールドの雰囲気は世界でも異質と言われるほどの熱量を帯びるのです。
このあたりの熱狂的なファン文化や愛称については、別の記事でも詳しくまとめていますので、あわせて読んでみてください。
リバプールの愛称はなぜレッズ？ ファンやサポーターの愛称の意味まで徹底解説
ノースウェストとマージーサイドにあるダービーの定義
プレミアリーグを見ていると「ダービーマッチ」という言葉をよく耳にしますよね。リバプールにとって重要なダービーは主に2つあります。
| ダービー名 | 対戦相手 | 特徴 |
|---|---|---|
| ノースウェスト・ダービー | マンチェスター・ユナイテッド | イングランド最大の黄金カード。 歴史的・経済的な因縁が深く、視聴者数も世界最大級。 |
| マージーサイド・ダービー | エヴァートン | 同じリバプール市内の近隣対決。 かつては友好的だったが、現在はカードが飛び交う激しい試合になりやすい。 |
この2つのダービーは、リバプールファンにとってカレンダーの日付を確認する際に真っ先にチェックする試合です。
「ノースウェスト」はイングランド北西部地域全体の覇権争い、「マージーサイド」はご近所同士の生活圏内でのプライドをかけた戦い、と捉えるとわかりやすいかもしれません。
プレミアリーグのダービーマッチについては、別の記事でも詳しくまとめていますので、あわせて読んでみてください。
プレミアリーグのダービーマッチ一覧｜伝統の見逃せない熱戦をチェック！
サポーターが抱くライバルチームへの複雑な感情
私自身もSNSや現地のファンの声を見ていると、ライバルに対する感情は一様ではないことに気づきます。
例えば、マンチェスター・ユナイテッドに対しては「憎しみ」に近い強い敵対心と同時に、同じように偉大な歴史と世界的な人気を持つクラブとしての「認め合いたくないけど認めざるを得ない意識」のようなものが透けて見えます。
お互いが「自分たちこそがイングランド最高のクラブだ」と信じているからこそ、衝突するのです。
一方で、エヴァートンに対しては「自分たちの方が格上だ」という余裕を持ちつつも、ダービーで足をすくわれることへの警戒心や、同じ街の住人としての腐れ縁のような感覚があるように感じます。
最近ではマンチェスター・シティに対して、憎しみというよりは「強すぎるがゆえの障壁」としての純粋なライバル心が芽生えているのも現代的です。
マンチェスター・ユナイテッドとの歴史的敵対心
リバプールファンに「最大の敵は？」と聞けば、多くの人が間違いなくマンチェスター・ユナイテッドの名前を挙げるでしょう。
この二つのクラブの間には、フットボールの枠を超えた長い歴史の積み重ねがあります。
マンチェスター・ユナイテッドと仲が悪い経済的理由
実はこの両者の仲が悪い理由は、クラブができる前の19世紀の産業革命にまで遡ります。
当時、リバプールは世界的な貿易港として栄え、マンチェスターは繊維産業の中心地「コットンポリス（綿の都）」として発展していました。
マンチェスターの工場で作られた製品を輸出するためにはリバプールの港を使う必要がありましたが、リバプールの港湾局や商人が課す高い関税や鉄道利用料に、マンチェスター側が長年不満を募らせていたのです。
これが、両都市の対立の始まりと言われています。
船舶運河の建設が招いた二都市間の深い亀裂
この経済的な不満を解消するためにマンチェスター側が強行したのが、巨大な土木プロジェクトである「マンチェスター船舶運河（Manchester Ship Canal）」の建設でした。
1894年にこの運河が開通したことで、大型船はリバプールの港を通らずに直接内陸のマンチェスターへ行けるようになってしまいました。
これはリバプールの港湾労働者たちの仕事を奪うことを意味し、リバプール経済に大打撃を与えました。
この時に生まれた「自分たちの生活を脅かした」という恨みや競争心が、そのままフットボールのライバル関係へとスライドしていったのです。
今でもマンチェスター・ユナイテッドやマンチェスター・シティのエンブレムに「船」が描かれているのは、この運河を象徴しているからだと言われています。
ファーガソンが変えた両クラブの力関係と歴史
競技面においても、両クラブは常にイングランドの頂点を争ってきました。
1970年代から80年代にかけてはリバプールの黄金時代でしたが、90年代に入ると状況が一変します。
1986年にマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任したアレックス・ファーガソン氏が、「リバプールをその座（perch）から引きずり下ろす」と公言したのです。
実際にユナイテッドはプレミアリーグ発足後に黄金期を築き、リバプールが持っていたリーグ最多優勝記録（18回）を猛追し、ついに追い抜いてしまいました（ユナイテッドは20回）。
この「奪われた王座」を取り戻す物語こそが、近年のリバプールの戦いの歴史でもあります。
プレミアリーグの歴代優勝クラブの推移については、以下の記事で詳しく解説しています。
ノースウェスト・ダービーの通算対戦成績と相性
歴史あるノースウェスト・ダービーですが、通算成績を見ると実はマンチェスター・ユナイテッドの方が勝ち越しています。
2024年時点でのデータを見ても、ユナイテッドの勝利数の方が多く、リバプールにとっては歴史的に見ても「乗り越えるべき壁」であり続けてきました。
全公式戦を通じた対戦ではユナイテッドがリードしていますが、ユルゲン・クロップ監督が就任して以降、その力関係は明らかに変化しました。
近年ではリバプールが主導権を握る試合が増え、かつてのような苦手意識は払拭されつつあります。
通算成績では負けていても、「今の強さは自分たちの方が上だ」という自信が、現在のリバプールファンにはあるはずです。
近年の7-0大勝が示すリバプールの優位性
このライバル関係の中で、今後何十年も語り継がれるであろう伝説的な試合が、2023年3月5日にアンフィールドで行われたプレミアリーグの一戦です。
なんとリバプールが7-0という信じられないスコアでマンチェスター・ユナイテッドを粉砕しました。
ライバル相手にこれだけの大差をつけて勝つことは、単なる1勝以上の価値があります。
この3人が次々とゴールネットを揺らし、後半だけで6得点を奪ったあの夜は、リバプールファンにとって最高に痛快な瞬間であり、近年の力関係を象徴する出来事として歴史に刻まれました。
エヴァートンとはなぜ距離が近くても険悪なのか
次に紹介するのは、同じリバプール市内に本拠地を置くエヴァートンとの「マージーサイド・ダービー」です。
マンチェスター・ユナイテッドとはまた違った、独特の緊張感がここにはあります。
アンフィールドとグディソン・パークの物理的距離
リバプールとエヴァートンのライバル関係を語る上で欠かせないのが、スタジアム同士の異常なまでの近さです。
リバプールのホーム「アンフィールド」と、エヴァートンのホーム「グディソン・パーク」は、スタンリー・パークという公園を挟んでわずか約1.3km（0.8マイル）しか離れていません。
ここがポイント
- 徒歩で移動しても20分かからない距離感です。
- 天気の良い日には、お互いのスタジアムが目視できるほど近くにあります。
- 生活圏が完全に重なっているため、学校や職場、パブに必ず相手のファンがいます。
この物理的な近さが、「負けたら翌日、近所の人や同僚に何を言われるかわからない」という日常的なプレッシャーを生み出し、ダービーの熱を加速させています。
マージーサイド・ダービーにおける通算成績の推移
マージーサイド・ダービーは、イングランドのトップリーグで最も長く続いているダービーの一つです。
通算成績ではリバプールが勝ち越しており、特に近年はエヴァートンに対して圧倒的な強さを見せています。
アンフィールドでのホームゲームに限れば、リバプールは1999年から2021年まで20年以上も負けていませんでした。
という構図が出来上がっていますが、それでもダービーは何が起こるかわからない怖さがあり、毎試合激しいタックルが飛び交います。
かつてフレンドリー・ダービーと呼ばれた時代
意外かもしれませんが、昔はこのダービーは「フレンドリー・ダービー（Friendly Derby）」と呼ばれていました。
同じ家族の中にリバプールファンとエヴァートンファンが混在していることも珍しくなく、スタジアムでも両チームのファンが緩衝地帯なしに隣り合って観戦することができたからです。
1984年のリーグカップ決勝では、ウェンブリー・スタジアムで両サポーターが一緒に「マージーサイド！マージーサイド！」とチャントを合唱し、ロンドンのクラブに対抗する北部の結束を示したという温かいエピソードも残っています。
ヘイゼルの悲劇がエヴァートンに与えた影響
しかし、その関係が一変したきっかけの一つが、1985年のチャンピオンズカップ決勝で起きた「ヘイゼルの悲劇」と言われています。
リバプールサポーターが起こした事故により、イングランドの全クラブが5年間にわたり欧州カップ戦から締め出される処分を受けました。
当時、エヴァートンはリーグ優勝を果たし、ヨーロッパでも最強クラスの強さを誇っていました。
しかし、この処分の巻き添えを食らう形で欧州制覇の夢を断たれてしまったのです。
エヴァートンファンからすれば「リバプールのせいで自分たちの黄金時代が潰された」という消えない恨みがあり、これが現在の険悪な関係（Bitterな関係）に繋がっていると言われています。
新スタジアム移転で変わる地元のライバル関係
エヴァートンは長年親しんだグディソン・パークを離れ、リバプール港のブラムリー・ムーア・ドックに建設中の新スタジアムへ移転する計画を進めています。
2025-26シーズンからの使用が予定されています。
これにより、「公園を挟んだお隣さん」という130年以上続いた特殊な地理関係は終わりを迎えます。
物理的な距離が離れることで、この濃密すぎるライバル関係の空気がどう変わっていくのか、地元のファンたちも注目しています。
深い歴史があるため、マージーサイド・ダービーの関係性はこのまま続くのではないでしょうか。
マンチェスター・シティやチェルシーとの現代の覇権争い
伝統的なライバルとは別に、2000年代以降のプレミアリーグを戦う中で生まれた、新しい形のライバル関係も存在します。
マンチェスター・シティとの高度な戦術的ライバル関係
現在、リバプールにとって最大の「競技上の壁」となっているのがマンチェスター・シティです。
ユナイテッドやエヴァートンとの関係が感情や歴史に基づくものだとすれば、シティとの関係は純粋な「強さへの追求」に基づいています。
世界最高峰の戦術と選手層を誇るシティに対し、リバプールがいかにして立ち向かうか。
この構図は近年のプレミアリーグのハイライトであり、お互いがお互いを高め合うような、緊張感のあるライバル関係と言えます。
クロップとグアルディオラの激闘と勝ち点1の差
特にユルゲン・クロップ監督とペップ・グアルディオラ監督による優勝争いは壮絶でした。
2018-19シーズン、リバプールは当時のプレミアリーグ歴代3位となる勝ち点97を稼ぎながら、わずか勝ち点1差でシティ（勝ち点98）に優勝をさらわれました。
2021-22シーズンも同様に1ポイント差で涙を飲みました。
この「あと一歩」の悔しさが、シティに対する強烈な対抗心を生んでいます。直接対決のレベルの高さは間違いなく世界一で、見ていて最も胃が痛くなる試合の一つです。
チェルシーとの因縁を決定づけたゴーストゴール
2000年代中盤、リバプールと激しくやり合ったのがチェルシーです。
特にジョゼ・モウリーニョ監督率いるチェルシーとは、チャンピオンズリーグなどの重要な局面でも何度も対戦しました。
因縁の発端となったのは、2005年チャンピオンズリーグ準決勝でのルイス・ガルシアのゴールです。
ボールがラインを割っていたかどうかが微妙な判定でゴールが認められ、これが決勝進出の決め手となりました。
モウリーニョがこれを「ゴーストゴール（幻のゴール）」と呼んで批判したことで、両クラブの間に強烈な敵対心が生まれました。
（出典：UEFAチャンピオンズリーグ公式サイト『History』）
アーセナルとの歴史に残る壮絶な打ち合い
アーセナルとも数々の名勝負を繰り広げてきました。
特に有名なのは、2009年のアンフィールドでの一戦、4-4のドローです。
アンドレイ・アルシャビンに4ゴールを許したこの試合は、リバプールファンにとっては悪夢のような、しかし忘れられないスペクタクルでした。
最近では、共に「打倒マンチェスター・シティ」を目指す同志のような立ち位置でもありますが、試合になれば互いに攻撃的なスタイルを持ち味とするため、点の取り合いになるエキサイティングな展開が多く見られます。
チャンピオンズリーグ決勝でのレアル・マドリード戦
最後に、イングランド国外のライバルとして外せないのがレアル・マドリードです。
ここ数年、リバプールはチャンピオンズリーグの決勝という最高の舞台で、二度もレアル・マドリードに敗れています（2018年、2022年）。
欧州の頂点を目指すリバプールにとって、マドリーは何度も行く手を阻む「ラスボス」のような存在です。
「いつか必ずリベンジを」という思いは、選手だけでなくサポーター全員が共有している感情でしょう。
まとめ｜リバプールのライバル関係を知れば観戦がより熱くなる
リバプールのライバル関係は、単に「仲が悪い」という言葉だけでは片付けられない深い背景があります。
マンチェスター・ユナイテッドとは産業革命からの歴史的因縁があり、エヴァートンとは同じ街で暮らす隣人としての複雑な感情があります。
そしてマンチェスター・シティやチェルシーとは、現代フットボールの頂点を争う中での激しい競争があります。
記事のまとめ
- マンチェスター・ユナイテッド
歴史的・経済的背景を持つ最大の宿敵。 - エヴァートン
物理的な距離が近すぎる、愛憎入り混じる地元のライバル。 - マンチェスター・シティ
現代プレミアリーグにおける最強の競争相手。
次にリバプールの試合を見る際は、対戦相手が誰なのか、そしてその相手とリバプールの間にどんな物語があったのかを思い出してみてください。
きっと、選手たちのプレー一つひとつに込められた気迫の意味が、より深く理解できるはずです。
自分もこれからも、この熱いライバル対決を追い続けていきたいと思います。
